ポークのウェルダンで物語な日々

主に映画、ときどき小説、漫画、ゲームなどの感想や紹介を書いています。

『心が叫びたがってるんだ。』感想|あなたが本当にしゃべりたいことは?

皆さまは、相手に本当に伝えたいこと、しゃべりたいことをちゃんと声に出して叫んでいますか?

まあ叫びはしないにしても、伝えたいことをちゃんと伝えるというのは大切なことです。悲しきかな我々人類はエスパーではありませんからね、相手の心を100%完璧に感じ取り理解するなんてことはできません。ですがつたなくとも言葉にしてどうにかそのニュアンスを伝えることはできるのです。

いいや表情や仕草だけで僕たちは会話できるね、僕らはいつも以心伝心、などと強がってはいけません。そんなことを言ってちゃんと言葉にしないから争いはこの世からなくならないのです。

そんなの聞いてない、詐欺じゃないかなんてことになってからでは遅いのです。本当は結婚したくなかった、就職ではなく進学したかった、公務員ではなく花火師になりたかった……後になってから恨み言をぶつぶつと言うくらいなら、まずは話してみるべきなのです。

案外すんなりと受け入れてもらえるかもしれませんからね。花火師になりたいと言ったら、実はお父さんも昔は花火師が夢だったんだなんて言って、かつての師匠を紹介してくれるかもしれません。父の夢を受け継いだ大きな大輪の花火を打ち上げられるかも。

もちろん、話したところでどうにもならない時もあるでしょう。現実なんてダメなことのほうが多いかもしれません。しかし、きっとはっきりと口にするかしないかでは、のちの気持ちもまた変わるのではないかと思うのです。

もしもあの時はっきり気持ちを伝えていれば……。そんな後悔はやっぱりしたくないでしょう。それよりかは、あの時はあんな恥ずかしいこと言っちゃって、若気の至りだったなあなんてほろ苦い青春話にしてしまうほうが、まだ気持ちも軽いのではないでしょうか。

というわけで、私も後悔することがないように今の気持ちを文字に変えて叫ばせていただきます。

金が欲しい。

……さてそんな雑念にまみれた私のことなど忘却の彼方でよいのです。どうでもいい。むしろ忘れてほしい。

今回はそんな、“自分の気持ちを相手にちゃんと伝えること”の大切さを教えてくれたアニメ映画『心が叫びたがってるんだ。』の感想を書きたいと思います。

 

通称『ここさけ』。こちらは2015年公開の映画でして、ご存じの方も多いのではないでしょうか。私も当時はよくCMで予告編を見た記憶がございます。これまた通称『あの花』こと『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない。』のスタッフが制作したということで有名ですね。残念ながらわたくし『あの花』は観たことがないのですが、『ここさけ』を観るに、『あの花』もそれは丁寧に作られた良い映画なのだろうと思えました。

 

さて今回も長くなってしまった前置きはこれでおしまい、本編に参ります。

物語の核心に触れるようなネタバレはしておりませんので、まだ観たことがないという方もどうぞ安心してお読みくださいませ。

 

“言葉”の重さ

小学生のころ、自分のおしゃべりが原因で両親が離婚することになってしまった少女・成瀬順。彼女の目の前に玉子の妖精が現れ、二度と人を傷つけないようにとしゃべれなくなる呪いをかけられてしまいます。それ以来、順はしゃべろうとするとおなかが痛くなるようになってしまい、しゃべらない子のまま高校2年生になりました。

そんな時、高校で催される「地域ふれあい交流会」の実行委員に選ばれてしまい  !?順のほかに選ばれたのは、顔面バスケ部の無気力少年・坂上拓実、腕を痛めてしまった野球部のやさぐれ元エース・田崎大樹、チアリーダー部の部長にしてスクールカースト上位の優等生・仁藤菜月。

ただでさえ声が出ないというコミュ障の極みである私が、個性のごった煮なメンバーとクラスの中心的役割を担う実行委員なんて務まるの!?……でも私、歌でなら自分の気持ちを表現できるかもしれない……!

「地域ふれあい交流会」で披露することになったミュージカルで、今までずっとしゃべりかった気持ちを歌にして伝えようと決意した順。少しずつ実行委員のメンバーとも打ち解けていき、ついに「地域ふれあい交流会」当日を迎え  !?

はたして見事ミュージカルを成功させることができるのか!?順がずっとしゃべりたかったこととは!?涙なしには見られない青春物語が、今はじまる  !!

 

  なんていう、けがれきった大人になってしまった私からしたら、眩しすぎて目がつぶれるようなキラキラの青春ストーリーだったわけでございます。

しかし、言葉は人を傷つけること、一度口にしてしまえば取り消すことはできないこと、そして、それでも声に出して相手に気持ちをちゃんと伝えることの大切さ。『ここさけ』が教えてくれたメッセージは、青春真っただ中の若者だけでなくどんな人にも伝わってほしい内容だと思いました。

嫌なことがあったから。イライラするから。疲れているから。そんな理由で、何の関係もない人にひどい言葉を言ってしまったりはしませんか?言葉の暴力なんて言いますが、人の言葉は誰かを傷つけるためにあるのではありません。人をやさしく受け止め、包み込むためにあるのです。そう、例えるならばお布団のような。涼しくなってきた朝、エアコンをつけっぱなしにして寝てしまい、寒さで目が覚めた時。ずれていた布団をしっかりとかけなおした時のあのぬくもり。言葉には、そんなあたたかさがあるのだと思うのです。ええ、自分でもちょっと何を言っているのかよく分かりません。

しかし、一度発してしまった言葉は取り消せないのだ、それだけ言葉には重みがあるのだということを今一度確認する、そんなよい機会になりました。そして、勇気を出して気持ちを伝えることで変わることがあるのだということも。本当に良き映画でございました。

 

絵がきれい!

もう一つの『ここさけ』の魅力は、その作画の素晴らしさです。

背景が本当にきれいで、キャラクターはかわいい。もうこれに尽きます。ただでさえ青春ストーリーで若者たちがキラキラ輝いているというのに、背景までもが美しく輝いて見えるのです。まったくどれだけ輝けば気が済むのでしょうか、この作品は(褒めてます)。

また主人公・順ちゃんの仕草もコミカルで大変可愛らしいのです。同じ実行委員の坂上君も言っていましたが、声が出ないというのに動きで十分彼女がおしゃべりだということは伝わってきました。

気になったのは、しいて言うなら野球少年・田崎君でしょうか。野球部らしく坊主頭でいかつい顔をしているのですが、『ここさけ』は大変可愛らしい絵柄なので、ちょっと描き慣れていない感じがいたしました。しかし、可愛らしく少し幼い見た目の子たちばかりの中で、大人っぽい特徴を持った田崎君は、キャラクターたちの視覚的なバランスをとる上で重要な役割を果たしてくれたのもまた事実。一人だけ絵柄が北斗の拳でも困りますし、あれが一番ちょうどよいデザインだったのかなあなどと生意気にキャラビジュアルに関して考えたりも致しました。

 

主人公にやさしいセカイ

そんな素晴らしい映画だったのですが、どうしても言いたい野暮な不満が一つ。それは、主人公がちょ~っとイタイかな~ということでございます。

いえね、何かしらの悩みを持った若者たちが力を合わせて一つの大きなことをやり遂げるというストーリーは本当に素晴らしいと思いますし、シーンの一つ一つも本当にきれいで作画も大変丁寧に仕上げているのだなと感じました。しかし、その素晴らしいポイントを若干削る勢いで主人公がイタイ、そしてその主人公を受け入れてしまう周りの人々に違和感を感じてしまったのです。

高2で「しゃべるとおなかが痛くなる呪いがかかっている」とか公言できるものでしょうか。私が高2だった時期なんて太古の昔のことなのでなんとも言えませんが、現実でそんなことを言うクラスメイトがいたらドン引かれること山のごとしだと思います。暗い青春を送った私からしたら、そもそも口もきけずただもじもじする女の子なんて、陰でJKたちにキモイキモイと噂され下手したらいじめの標的になってしまうことでしょう。橋本環奈級にかわいい子でない限り、映画のように男の子が手を差し伸べてくれたり、クラスのみんなが受け入れてくれることなどないだろうと、けがれた大人は作中そればかり気になってしまいました。

 

まあアニメ映画でそういうことを言いだすのは野暮だろう、お目目ぱっちりに可愛くデフォルメされた女の子だからこそいいんじゃないかとも思うのですが。ただ、キャラクターたちは大変かわいらしく描かれてはいるのですが、彼らが歩く世界はあまりにも美しくリアルな背景として描かれているもので、やっぱり違和感を感じてしまったのです。人々が歩くさまを遠くから映した街並みの風景なんて、ぱっと見では実写かと思ってしまうほどリアルに描かれていました。

そんなわけで、キャラクターと背景とに少しだけズレを感じてしまったのでした。

 

ちなみに、つらい経験をしたことで声を失ってしまう少女の物語と言えば、私が遠い昔に読んだ青木和雄著『ハッピーバースデー~命かがやく瞬間~』という児童小説を思い出すのですが、こちらの小学5年生の主人公は呪いだなんて一言も言いませんでしたね。こちらも大変感動する名作でして、私も読み返すたびに涙がちょちょぎれております。小さなお子さんはもちろん、大人の方にもおすすめの作品でございます。

 

 

そんなこんなの『心が叫びたがっているんだ』でございました。

玉子の妖精とか呪いとかをはさむのではなく、普通に幼少期のトラウマで声が出なくなった、だけではダメだったのかな~などと気になってしまった部分もございますが、この作品が伝えたかったものには確かな価値があると感じました。青春を思い出したい方、泣きたい方、主人公の精神年齢の低さに耐えられる方、そんな方々にはとてもおすすめの作品となっております。いろいろな意味で面白い映画でございました。

 

最後に。台風が来るだなんだと騒がれる昨今、そんな自然の脅威には負けぬとインターネットを開き、こんなとりとめもない駄文たちを読んでくださったそこのあなた。もしも台風が今来ているというのなら、停電の恐れがあります、こんな駄文のために電気を使ってはいけません。パソコンもスマホも貴重な情報源であり、連絡手段であり、光源でもあります、しっかり充電しておいてください。でも読んでくださったことに台風よりも強く感謝いたします。この駄文が少しでも気休めになりますように。

そして台風?なんのこっちゃという方へも。ハリケーンよりも大きな感謝の心をささげます。どうぞお体に気を付けて、健やかにお過ごしください。皆さまが台風になど負けず自分の気持ちを叫べますように。

それでは、またどこかで。